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レイプ


1993年2月 一年でこれからもっとも暑い季節を迎える前のバンコックは朝、晩涼しい風が吹きこみ、湿気もなく、快適な時期である。そんな季節のある日の朝。疲れきった体をひきずり一人の旅人がジュライホテルの自室に戻ってきた。旅人は精根尽き果てていた。
 部屋に入るなりそのまま眠りに落ちた。疲れきってはいるが深く眠りにつける心境ではなかった。なんとも言いようのない複雑な気分であった。浅い眠りについてからどれくらい経ったのだろうか。つい先日ビルマで拝んだある仏像が「どうだ、ご利益があったであろう?」と夢の中で問いかけてきた。

 3月旅人はあるタイ東北部のどさまわりからジュライホテルに戻ってきた。受付のすぐ脇に顔見知りのジュライ住人がたっていた。
 その住人は旅人の顔を見るなり「こないだ見知らぬ日本の女がお前を訪ねてきてたぞ。手紙を預かってるんだその女から。待ってろよすぐ持ってくるからな」と言った。
 旅人はその住人から手紙を受取った。まわりの日本人から冷やかされつづけた。それが嫌で部屋に戻り、シャワーを浴び終えると、ガンチャ一本巻いて思いっきり吸いこみ手紙に目を通した。

 その手紙にはある女から旅人へのあの日の出来事への感謝の気持とそしてインドでの出来事が、詳細に記されてあった。その女はインドでの旅を終え3日前に帰国していた。
 旅人は手紙を読み終え目を瞑ると、あの日の出来事がとても鮮明に蘇ってきた。

 2月ある日のこと旅人はビルマからジュライホテルに戻りカオサンの散歩を楽しんでいた。背が高く色白のある日本の女が目にとまった。「こんにちは、日本人ですか?」と旅人は声をかけた。「はいそうですが、あなたは怪しい人なのでしょうか?」とその女に聞き返された。
 「自分で自分のことを悪人と名乗る悪人など、どこの世界にもいませんよ」と旅人は呆れかえり笑った。「そうですよね、ごめんなさい、意味のない質問をしてしまい」とその女も笑った。
 その女の目から警戒心が消えていたのを見抜いた旅人は、その女を間髪をいれず、コーヒーショップに誘った。
 雑談に耽りやがて薄暗くなってきたので、ヤワラー テキサスのタイスキに連れて行った。

 その女はある地方都市の出身で30歳であった。なかなかの美人で透けるほどの色白の肌の持ち主であった。その日、テキサスでの晩飯を終えるとその女はカオサンに帰っていった。それっきりだなと旅人は思っていた。

 数日後のある日の昼下がり、その女はなんとジュライホテルの旅人の部屋に訪ねてきた。しばらく雑談をしながら、旅人はその女を観察していた。
 旅人は思った。どこから見ても、ごく普通の家庭に育ったどこにでもいそうな、平凡な堅気の女だと。

 旅人はガンチャを一本巻き一服吸いこむと、その女にすすめてみた。以外にもその女はなんの疑心も抱かず、すすめられるままに吸いこんだ。
 ゴホゴホとその女の喉から咳きこむ音が聞こえた。涙が流れでて苦しそうであった。その女はタバコすら吸ったことはなく、ましてガンチャなどは初体験であった。

 旅人の統計学上では、ガンチャ未経験者が試し吸いを行う状況下でまず最初にだす言葉は「あの、、これって日本で思われてるほど体には害がないんですよね」!!
 「すこしくらいなら問題ありませんよね?」「どのように吸えばいいのですか?わたしまだ、吸ったことがないので、悪用してへんなことはしないとやくそくしてくれますか?」
 などたしょうの不安を口にしたり、これから先自分の行う行為がいちようは違法であることによる後ろめたさから逃れるためその行為を正当化するために、まして女であれば、自身の保身のため安全保険を求めるような言動を先に制すのが普通であるのだが、その女は違っていた。

 不思議な女だと旅人は思い観察していた。その女は旅人からの、手ほどきでなん服かを吸い終え、巻かれたガンチャは根元まで吸い終わっていた。旅人は未経験の者が、吸い終えたあとの意識と行動、言動などの変化を見るのが大好きであった。

 やく8畳ほどのジュライの部屋に沈黙の時が流れていった。旅人はその女を観察しつづけていた。シャワー室備え付けのプラスチック製のバケツの中に水道の蛇口から水滴がこぼれ落ちる音だけが聞こえてくる。ジュライホテルのシャワー室のトイレは西洋式であったが、水洗式ではなくバケツに溜めた水で流しこむトルコ式である。これが非常に便利であった。警察の不意をついた手入れなどの時違法的なものをトイレに流しこみ証拠隠滅をはかるためのジュライ住人の生活の知恵であった。

 時は流れた。わずか一本を二人でまわし吸いしただけにもかかわらず、その女は急におかしくなりだしたのであった。
 顔、目つきが霊媒師か教祖のように変わり、いきなり部屋の中でヨガともとれるような運動を展開しだした。
 旅人は予測外のその女の変化にわずかばかりの恐怖心を抱きながらも、その反面これから先の未知なる展開に期待をよせながら、黙ってその女を見守った。

 40〜50分にもおよびその運動的行為はつづいていた。旅人がこれはちょっと常人的ではないなと不安に駆られらしたころ、その女は「私はなんでも知っている」
 「私は自分自身のことを無意識のうちに理解している」などと呟きながら、そのうち目が淫乱に輝いたかと思うと、ラリッタようになり髪の毛は振り乱れやがて床に寝転び、ひきつけを起した病人のようにあお向けになり沈黙がはじまった。

 その女の変貌振りは旅人のいままでの人生経験上の理解をこえるものであった。旅人はもて余しこれは外にでたほうがいいと判断して、スリクルンホテルのコーヒーショップに連れだし、そこでしばらく酔いをさまさせることにした。
 スリクルンのコーヒーショップでその女は、明日カルカッタに旅立つのだがチケットを夕方6時に取りにカオサンに戻らなければならないので「一緒にカオサンまで」と旅人を誘った。

 その女はチケットを受取ると旅人はニューワールドセンターの交差点を超えたバンランプーの船着場のある運河の橋の階段をおりたところの屋台に連れて行き晩飯を食べた。

 カオサンに戻ったところでその女は旅人を自分の部屋に誘いこんだ。警察署からカオサンをそのまま終点まですすみ、つきあたりの通りを横切りそのまますすむと、食堂とビリヤード場があるが、さらにそのまますすむと小さな郵便局がある。その少し手前に位置するゲストハウスであった。
 その女の部屋は左右となりあわせており、うすいベニヤの板一枚だけで仕切られていた。トイレ、シャワーも共同の離れであり、部屋は3畳一間といったところであった。
 隣の住人の話し声がそのまま聞こえてくる。右も左もヘブライ語らしき言葉であった。立ったり、座ったり、寝転んだりするときのベットのきしむ音もそのまま伝わってきた。
 日本語でならどんな会話をしても解読される心配はなかった。

 「その女はガンチャが吸いたい」と呟いた。旅人は思った。ここは自分の部屋ではない、なにか起きれば、そのまま逃げだせばすむことだなと。
 いわれるままに、旅人は一本巻いた。まずは旅人から火を点け思いっきり吸いこんだ。それからその女にまわした。まわし吸いは根元まで至り沈黙がつづいた。

 時は流れた。1時間くらい過ぎたであろうか?すると、また、ジュライホテルと同じ現象になりはじめていった。霊媒師か教祖のように髪は乱れ、ヨガをはじめ「私はなんでも知っている」と延々とつづいた。
 旅人はただ、ひたすらに、その女を見守る以外になかった。そのまま時は流れていった。そのうち女は自己の告白をはじめた。

 その女は当年30歳。色白、肌はきめ細やか、背が高く美人であった。初めての海外旅行であった。ニュージーランドで3週間の短期語学留学を終えて飛行機でシンガポールへ。マレー鉄道でバンコックに着いたところであり。この先インドへ。合計2ヶ月の短期一人旅であった。
 ある地方で公務員をしていたが退屈な日常に飽きて自分を変えるために公務員をやめて旅にでたとのことであった。
 霊媒師か教祖のように変貌したその女は突然こんな告白をはじめた。「実は私はこの歳になるまで、処女同然です」いままで男と恋愛はもちろん付き合ったことも、デートしたことも、手を握ったこともましてはキスしたこともないのですと語りはじめた。
 旅人は唖然として「その同然とは」と尋ねみた。するとこんな告白が、「実は中学2年のとき義理の兄に」!!!

 なんと犯されたという言葉がかえってきた。その女の姉は結婚後旦那とその女の実家で同居していたらしいい。犯される前から義理の兄は頻繁にその女の部屋をふすまから覗いていたらしく、時にはその女の下着類まで部屋から持ちだして堪能していたらしかった。
 それとなく何度か母親に相談していたらしいのだが母親は「よくある事よ、自分の女房の姉妹に興味を持つことなど」といってとりあわなかったらしい。
 家族が外出中で運悪くその女と義理の旦那二人きりのある日にその惨事は起きた。母親と姉には恥ずかしく打ち明けれなかったらしく、その後数年間姉夫婦が独立して家をでて行くまで、沈黙の義兄妹の関係がつづいた。

 その女は当然の如く深く傷つき、だれにも打ち明けることのできない。男を寄せつけることのできない。男性恐怖症、男性不信症を抱いたまま30歳まで生きてきたのであった。

 旅人はこの告白を聞き終えた瞬間涙がこぼれ落ちている自分に気がついた。旅人の涙はしばらくとまることはなかった。
 その自分と決別したい、変わりたいという願いと目的でその女は旅にでてきたのであった。

 その女はここまで告白し終をえるとなにか憑き物がとれたように、おだやかになり全身の力が完全に抜け落ち綿菓子のようにふにゃふにゃな体に変わり突如旅人にもたれかかり心臓の音を聞かせてくれと一言呟いた。
 時は深まり長い沈黙のうちにその女のおもみで旅人は仰向けになり心臓の音を聞かせ、なるがままにさせてやるほかなかった。
 まだまだ告白はつづいた。ホームステー先のニュージーランドーで年下のあるアジア留学生の男と自分が変われるチャンスとばかりに試してみょうとしたのだが、体に触れられただけで鳥肌がたち、いいようのない恐怖心に襲われとても耐えきれるものではなかったらしい。
 しかしそのあるアジア留学生の若い血がおさまりそうにないのを察知して、手淫で処理をすませ、その場から逃げたのであった。

 旅人は心臓の音を聞き続けていた。その女はふたたび霊媒師か教祖のようになり髪を振り乱して、「私は何でも知っていると呟き」正常時の美形の顔立ちは原型を留めてはいなかった。

 計りきれない時が流れていた。その時、その女は囁いた。「お願いですから、あなたからは、なにもしないでください。まな板の上の鯉のようにしていてくれると約束してください」と。
 そしてその女は自分の服を脱ぎはじめた。「まな板の鯉のように」と繰り返しつづけていた。

 旅人は昔読んだある書物を思いだしていた。女は安産ができる、ぎりぎりの年齢に至ると、子孫を残さなければならない動物的本能から無意識のうちに男を求める生き物であると記されていた書物があったなと。
 旅人はこの不慮の事故に巻きこまれた。哀れなその女を温かく見守りつづけながら考えていた。30歳で五体満足で男を知らなければ、精神的な問題で男を受け入れることができなくても、肉体が無意識のうちに男を求めてもあたりまえであり、その女は、ほんとうは男日照りがつづき欲求不満だと感じた。
 旅人はその女のすべてを受け入れ受身に徹してなるがままにさせてやることに決めていた。「今なら変われる!もう私の体は男を拒否していない」と呟きながら、その女は仰向けのままひたすら受身に徹している、旅人のシンボルを自分自身のバギナに挿入した。
 挿入後その女の行為はとても永く延々とつづいているように旅人には思えた。その女のバギナからは想像を絶する30年分の大量のラブジュースが溢れだしつづけていた。

 なんだか犯されてる心境だなと旅人はうわごとを考えていた。その女を取り巻く状況上旅人は男としてのリードを行うことは不可能と思っていた。その女の呼吸、腰の動きとリズムに合わせてやることしかできなかった。
 いつ果てるともわからぬ営みの中で旅人は思った。普段のような快楽をともなう、快楽を目的とした、いつもの性行為とは根本的になにかが違う。
 人身御供にされた女の心境とはこのようなものであるのだろうか?ほんらいなら絶対に男として味わうことのできない経験と未知の領域の隠された滞在的能力が引きだされている事への喜び。
 そしていままでだれの手によっても治療不可能であった一人の女の心の病を救うことができた、おかしな自己満足。
 自分のあまり価値のなさそうな肉体によって、まさにいまという瞬間一人の女が喜びに導かれようとしている事への男としての満足感と喜び。
 などが延々とつづく不思議な男女の営みの最中に消えては浮かび、消えては浮かんでいった。やがてその女は果てた。

 果てた後もその女は旅人の胸を枕に旅人の心臓の音を聞きつづけていた。心臓の音を聞くことによって、その女が「まだ生れ落ちる以前に母の母体で生をさずかったその瞬間から義理の旦那に犯されて以後苦痛により男に対して固く心を閉ざしつづけてきたついいましがたまでの自分のすべてが理解できる」のだと旅人に語った。

 その女は旅人の胸を枕にしつづけ時はそのまま流れて行った。その女は果てたのち再び回復してさらに旅人に求めた。
 旅人はその女が一度果て再び回復するまでの間中その女のバギナから溢れだしつづけていたラブジュースがとまることはないことを理解していた。
 30年分のラブジュースであった。その女のすべてを受け入れていた旅人はその女の再びの求めに応じた。
 二度目は本来あるべき男女の営みの姿で、旅人が男としてリードする事が出来た。やがて2度目の営みも終焉を迎えたが、今度は旅人もその女も正常に逝くことができたのであった。
 まさに童貞と処女がその営みにおいて、はじめて合体と融合に成功して極楽浄土に至ったのである。

 明け方近く、カオサンのベニヤ板一枚で隣の部屋と仕切ってあるだけのなんの飾りもないその部屋でその女は今までの自分と決別して、女になった。30歳の遅かれし春であった。女になり終えたその女からは歓喜で溢れ背中からオーラが見えていた。

 朝早くインドに向かうその女は、まるで別人のように歓喜に包まれながらタクシーでドンムアンに向かった。
 
 旅人は朝、、歓喜に包まれインドに旅立つためタクシーでドンムアンに向うその女を見送ると、そのままサムロに乗りこんだ。ウォンイエーンジーシップソ−ンカラカダーと告げると運転手からハーシップバーツ「50バーツ」といわれた。相場は30バーツだが、もう交渉する気もなかった。トクローング「合意した」早くジュライに帰り眠りたい一心であった。

 旅人は帰る途中サムロの風に吹かれ夢を見た。これはいい冥土の土産ができたもんだなと。運転手が着いたぞと起こしてくれた。気がつくとジュライのまん前であった。