タイ>サンチャン


一杯飲み屋の女将。初めてジュライホテルにたどり着いた頃、彼女は17歳だった。とても可愛い少女であった。ジュライホテルの掃除婦をしていた。

通称 サンチャン。ジュライホテル閉鎖後、ジュライホテル前の歩道に店舗を構え独立。それ以後ジュライホテル縁の日本人相手に大いに賑わう。日も暮れ始めた頃、ここで飲んでいれば昔懐かしい顔ぶれに再開することができた。

何時だったかこんな話で盛り上がったことがあった。


何時だったかジュライ元住人がこんな話をしていた。

「ねえねえアメリカ人、イギリス人、ドイツ人、フランス人、韓国人の乗客計5人が5人乗りのセスナ機に乗っていたんだよ荷物と一緒にね。それから機長が1人。

 しばらく飛行しているとエンジントラブルが発生したんだよ。なかなか直らないんだよ。そこで機長が乗客に「すいませんが、機体を軽くするため持っている荷物を捨ててください」とお願いしたんだよ。

 もちろん乗客は全員それに従い荷物を機外に捨てたんだがね。それでもエンジントラブルは直らずに高度がだんだん下がり続けていったんだよ。機長はこれではやばいもっと機体を軽くしなければいけないと判断して乗客にこうお願いしたんだ。

 「すいませんがこれ以上に機体を軽くしなければこのセスナ機は墜落してしまいます。皆様の中から一人だけパラシュートを使い機外に出てくれませんか」とね。

 機長の求めに応じて一人勇敢にも機外に飛び降りた人がいたんだ。だれだと思う?

 だれも答えられなかった。

 アメリカ人だよ国歌を歌いながらパラシュートで勇敢に機外に降り立っていたんだよ。

 しかしそれでもまだエンジンの不調は続いたんだ、そこで機長が「すいませんが、まだまだこれ以上に機体を軽くせねばなりませんのでもう一人だけ降りてくれませんか?」とお願いしたんだが、さらに勇者がいってその彼もアメリカ人に続き飛び降りたんだ。

 さ〜次は何人だと思う?

 だれかが「ドイツ人だと思う」と答えた。

 「そのとおりドイツ人がやはり国歌を歌いながら勇敢に降り立っていたんだよ。」

 それでもエンジンは回復しなかったんだけど機長は「すいませんが、最後にもう一人だけお願いできませんか?最後の一人が機外に出てくれればこのセスナ機 は無事目的地に到着できそうですのでみなさんの中から最後一人だけ勇者が出てくれるのを信じています」てね問いかけたんだよ。

 暫く沈黙が続き機体は益々高度が下がり続けていったその時、世の中は捨てたものではなくやはり勇者は存在したんだ。何人だと思う?

 だれかが「イギリス人だろうな」と答えた。

 「正解はNO」以外にも「フランス人なんだ」とこの話の言いだしっぺは言った。

 フランス人が「それでは俺が犠牲になってやると」言ってパラシュートを体に取り付け、国歌を歌いながら扉を開け飛び降りようとしたんだけどね。

 その瞬間イギリス人が「待てそれでは大英帝国の恥になる、俺を代わりに飛び降りさせてくれ」と言い、飛び降りかけたフランス人を遮り、パラシュートを取り付け国歌を歌いながら勇敢に飛び降りようとしたんだ。

 だけどね。そのイギリス人は、まさにその飛び降りる瞬間。隣の席に無言のまま座っていた韓国人の背中を掴み外に放り投げたんだよ。

 「これはヨーロッパで有名な国民性をあらわすたとえ話らしいよ。」

 「さすがイギリス紳士と皆頷いた」


低価格のビール一本でお手てをさわるくらいは、ニコット笑ってマイペンライで済ませてくれた。ある日カンボジアから戻ってくると店をたたんで消息不明になっていた。なんだか灯火が消えたようであり、残念でならない。

END